L-Acousticsの Women in Pro Audioシリーズは、プロオーディオ業界で活躍する多くの驚異的な女性たちの功績を讃えるものです。今回も素敵な方を続いて紹介いたします。このシリーズでは、サウンドミキサーからエンジニア、オーナー、そしてその間にいるすべての女性に至るまで、才能を発揮し、革新的な技術と忍耐力でプロオーディオの分野を向上させている不可欠な存在に焦点を当てています。彼女たちの貢献と存在なくして、今日のプロオーディオ業界はありえません。

今回のWomen in Pro Audioシリーズでは、Sonoruss GroupとL-Acoustics Russiaのプロダクトマネージャーであるリリヤ・ガヌーディノヴァ(Liliya Gainoutdinova)さんにお話を伺いました。

当初、リリヤさんはプロオーディオ業界での生活を目指していませんでした。実際、リリヤさんはマーケティングを勉強していて、オーディオエレクトロニクスではなく、表計算の世界でキャリアを築こうとしていました。音楽が好きだったことが、このような素晴らしい職業に就くきっかけとなるとは思ってもいませんでした。「私は小さい頃から音楽を聴くことが好きでしたが、将来、音響技術者になるとは思ってもいませんでした。高校生のときは、マーケティングの仕事に就くと思っていて、一生、スプレッドシートと格闘していくと覚悟していました。」

そんなリリヤさんがプロサウンドの世界に足を踏み入れたのは、大学に入ってからのこと。大学時代に、学生サークルに入って、仲間と小さなパフォーマンスを行うようになりました。彼女は、夏にロシアのヴォルガ川で行われた学生キャンプに参加したときのことを話してくれました。ヴォルガ川は、中央ロシアから南ロシアを経てカスピ海に注ぐヨーロッパ最長の川です。プロオーディオに興味を持ったのはその時でした。

「サマーキャンプでは、同じ大学の学生でもあったパフォーマンスの技術スタッフと出会いました。とても興味深かったので『この機材はどうやって動くのだろう?このツマミやフェーダーは何のためにあるのだろう?』といつも聞いていました。そのキャンプから数ヵ月後、私はすでにFOHエンジニアとして大学の学生フェスティバルで活動していました。そして1年の半分が過ぎた頃、レンタル会社やコンサートホールで働くようになりました。たった数ヶ月で私の人生は完全に変わってしまったわけです。」

リリヤさんは業界での仕事について、お気に入りの体験を話してくれました。「昔、サンクトペテルブルクに行って、タワー・オブ・パワーというバンドと一緒にプライベートの企業イベントの仕事をしたことがあります。これはかなり大変でした。会場では、すべてがどのようにつながっているのか誰も知らないという問題に直面しました。システムの構成を変更し、セットアップ中にバンド用のコンソールを追加する方法を見つけなければなりませんでした。そのため、サウンドエンジニア用のミキシングデスクを用意する代わりに、同僚と一緒に会場内のどこにケーブルが通っているのか、どこにアンプがあるのかを探しました。幸いなことに、結果的にはアンプを見つけ、Network Managerでシステム構成を再構築し、ミキシングデスクを接続することができました。その後、私の大好きなバンドの素晴らしいショーを観ることができました。このようなハプニングが一番好きなのです。困難があっても、それを一緒に乗り越えて、素晴らしいショーを聴くことができるのですから。」

問題としては、「自分がエンジニアであることを理解してもらうのが難しいときがあります。でも、それは良くなっていると思います。私が仕事を始めたとき、私の街では女性のサウンドエンジニアは私だけでした。しかし今では、この業界で何人もの女性を見かけるようになりました。状況は良い方向に進展していると思います。他の女性にアドバイスするとしたら、『人の悪口を気にしないこと』です。自分よりも長く働いているからといって、自分の方が優れていると考えるべきではありません。確かに経験は豊富かもしれませんが、それだけではありません。誰かに自分の方が優れていると思わせてはいけません。常に学び続け、自分のスキルをアップグレードしていくべきです。」
彼女が仕事で一番好きなのは、「スタートからフィニッシュまで」のプロセスです。「新しいプロジェクトを始めるときには、クレイジーなアイデアがあふれます。チームは、起こりうる問題を解決するために懸命に働き、コミュニケーションをとり合うことで、素晴らしい成功を収めることができます。それは充実感のある体験です。アイデアが現実になることを目の当たりにするのは、最高の気分です。」とリリヤさんは説明します。
また、この業界について一つだけ変えられるとしたら、「機材がもっと軽くなったらありがたいです!特にスピーカーやミキシングデスクが軽くなれば、この業界の女性にとってはとても楽になります。」
振り返ってみると、リリヤさんは2014年のソチオリンピックのフィシュト・スタジアムでの仕事を思い出します。「私はスタジアムのオーディオ部門で働くために現地に行きました。プレスセンター、通訳サービス、ホワイエのSRなど、スタジアムの内部システムを担当しました。これは素晴らしい経験でした。祖国に対する大きな責任を感じました。当時、真新しいK2をAgoraのメンバーが吊っていたことを覚えています。その2年後に、あのシステムを扱うことになると言われても、絶対に信じなかったでしょうね。実現不可能な目標だと思っていましたが、今は自分で扱っています。」

業界で働く女性へのアドバイスとしては、「これは誰にでも当てはまることだと思いますが、オーディオ・エンジニアリング、ミキシング、ネットワークといった基本的なことを知っておいた方がいいでしょう。それ以外のことは、基礎をしっかり理解していれば学ぶことは簡単です。特に今年はパンデミックが発生したこともあり、今は多くの情報が公開されています。誰もが自分の経験を共有しています。特にメーカーのホームページでは、あなたの質問へのすべての答えが載っています。」

続いて、リリヤさんは口調を和らげ、この1年の苦難と、パンデミックがいかに業界を揺るがしたかを振り返ます。「ツアー会社やライブサウンドメーカーから、何千人ものクルー、エンジニア、会場スタッフに至るまで、その被害は計り知れないものがあります。しかし、少なくともここロシアでは、日に日に良い方向に向かっていることを実感しています。ツアーが再開されたことで、いつの日か日常生活に戻り、再びツアーやショー、そして楽しい時間を過ごすことができるのではないかと期待しています」。

この成長著しい業界に、リリヤさんがどのように貢献をしてくれるのかが楽しみです。コロナ禍の騒動で挫折したものの、彼女のような才能ある人がプロオーディオやライブイベントの業界を再び軌道に乗せることで、刺激的でにぎやかなものになっていくと期待できるでしょう。