2023年5月

COVID19が終息を迎え日本のエンターテインメント業界が復活を始めた2023年2月、L-ISAは日本での長きにわたる眠りから目覚めました。スリーピースロックバンドとしてライブを中心に2008年から活動を続ける「My Hair is Bad」は、2022年5月からスタートしたUltimate Homerun TourのFinal Arena SeriesをL-ISAでプレイすることを選びました。

システムエンジニアであるヒビノサウンド・永易氏は言います。
「L-ISAが世界中のコンサートツアーで好評を得ていることを私は知っていましたし、近い将来に日本でL-ISAシステムによるコンサートが実現されることを確信していました。このため私は、2022年の春に必要なトレーニングのすべてを受講し準備を整えていましたが、日本では誰もが想像するよりも長くCOVID19の影響が残り、エンターテインメント業界が停滞を続けることとなりました。」

COVID19の規制解除が見えてきた2022年秋、My Hair is Badのミキシングエンジニアである00works・越智氏と永易氏は2023年2月のアリーナショーでL-ISAを用いることに向けて準備を始めました。

越智氏は言います。
私は永易氏と長きにわたり一緒に仕事をしており彼を信頼しています。彼からはじめてL-ISAの話を聞いた時、私はシンプルに「自分でそれを試してみたい」と思いました。その後、彼が用意してくれた小スケールのL-ISAシステムでDAW音源を用いてミックスを試したところ「これまでとは違うなにか」を確信しました。

永易氏は言います。
日本で誰も経験したことのない「L-ISAシステムによるコンサート」を関係する人々に理解してもらうことがスタートでした。幸いなことに、アーティストをはじめとして、すべての関係者がL-ISAを好意的に受け入れてくれたため、私はすぐに会場の荷重制限など「テクニカル面での検討」に進むことができました。

ロックバンドであるMy Hair Is Badのショーには十分な表現力を備えたシステムが必須です。永易氏はL-ISA Focusをベースとし、アーティストの感情を完全に表現できるだけのパワーを備えた特別なシステムを設計しました。シーンシステムとして12本のK2で構成されたアレイを5か所に配し、その後ろに6本のKS28で構成されたサブウーハーアレイを横並びで2つ配しました。アウトサイドフィルとして15本のKARA IIアレイを2か所、フロントゾーン用にSpatial Fill形式で構成した11台のA10 FOCUSと6本のKS28サブウーハーを分散スタックしています。

アレイ5か所のシーンシステムとサブウーハーアレイ

Spatial Fill形式で11台のA10 FOCUSと6本のKS28を配置

12本のK2アレイとアウトサイドフィルとして15本のKARA IIアレイ

Hyperreal Sound L-ISA

ミラーリング設定の2台のL-ISA Processor IIは、Digico SD 10から二重化されたMADI信号を受け取り、Luminex GigaCoreとL-Acoustics LS10を介して、40台を超えるLA12Xにアナログバックアップを備えたAVB MILANフォーマットで音声と制御信号を分配します。永易氏はシステム内に存在するP1を使い、手慣れたいつもの方法でシステムをキャリブレートしました。

ミラーリング設定された2台のL-ISA Processor IIとP1

LA12XへAVB MILANフォーマットで音声と制御信号を分配

美しく正確に仕込まれたシステムは、優れたクルーにより「通常のLRシステムと同じタイムスケジュール」で仕上げられ、サウンドチェック・リハーサルともに「いつもと同じ時間」で実施されました。

通常のLRシステムと同じタイムスケジュールで仕上げられました

越智氏は言います。
L-ISAシステムにおけるミックスはLRシステムでのそれとは違うアプローチです。「音源を空間にレイアウトする」という感覚に近いのかもしれません。「すべてのオーディエンスがボーカリストの歌声をボーカリストの方向から受け取る」というナチュラルなことが大規模空間で実現されるのは本当に素晴らしいことです。

永易氏は言います。
「楽曲が備えるメッセージ性の強い歌詞をナチュラルなローカリゼーションで表現したい」というのは私も常に感じていました。L-ISAはそれが実現できることに加えて「これまでにはない表現」ができるのも大きなメリットです。実際にショーのある曲では「ボーカルとギターのみで始まる数小節はステージセンター周辺に限られた空間を作りオーディエンスの意識をそこに集中させ、ベースとドラムが加わるのにあわせて空間を拡げて壮大なイメージを感じてもらう」という手法を用いました。

満席でスタートしたショーは、バンドのストレートな演奏を余すところなく表現するL-ISAシステムによりこれまでにないエモーショナルなものとなりました。アンコールが終わり明るくなった会場にはたくさんの笑顔があふれ、多くの関係者から音響チームに賞賛の声が寄せられました。

越智氏は言います。
私にとって今回のショーはとても楽しい経験となりました。ミキシングにあらたな表現を用いることができるL-ISAは、ジャンルを問わず、あらゆるショーでそのメリットを活かせるのではないでしょうか。

永易氏は言います。
L-ISAはアーティストやミキシングエンジニアのクリエイティブな発想を大空間で表現することを可能にする新たなテクノロジーであり、今後ますます一般化していくと想定していますし、また、そうあってほしいと思っています。

左より永易雅章氏(ヒビノ株式会社)、越智弘典氏(株式会社00works)、中村歩美氏(フリーランス)、志田匡氏(ヒビノ株式会社)

写真撮影:土屋宏氏

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