2023年10月
国際オリンピック委員会(以下、IOCと言う)が、様々な国際スポーツ連盟やゲーム会社との協力で開催した史上初のオリンピックEスポーツ・ウィークは、12,000㎡を誇るサンテック・シンガポール国際会議展示場で行われました。数か月にわたって各国で行われた予選は、4日間に及んだイベントでテレビ、モバイル、PCゲームに加え、テコンド、サイクリング、アーチェリーなどVRスポーツの試合を通して幕を下ろしました。ライブで世界中のEスポーツゲーマーとVRアスリートが2万人の観客の前で競い合いました。

多様なコンテンツを含むプログラムを提供するオリンピック・Eスポーツ・ウィークは、オーディオチームにとって課題をもたらしました。従来のオリンピックと同様に、この選手権でも開閉会式が執り行われましたが、従来のオリンピックと違って、L-ISAイマーシブ・ハイパーリアルサウンドを利用しました。

フェスらしい雰囲気を持ったイベントでは、ライブDJセッションや、ゲーマーとEスポーツのファンが自由に試せるインタラクティブなゲームステーションを設置したゲーム開発社や出版社のブースなど、さまざまなエンターテインメントが開催されました。また、すべてがIOCのYouTubeチャンネルにライブでストリーミングされました。

シンガポールのライブイベントプロダクション及びショー・マネージメントを専門とするPresplayは、シンガポール建国200年祭やWTAファイナルズなどを担当し、今回のオリンピックイベントのクリエイティブ・プロダクションも担当しました。 PresplayはCtrl Fre@k(コントロールフリーク)社のサウンドデザイナー、ジェフリー・ユエ(Jeffrey Yue)氏 にサウンドを依頼しました。Presplay社のクリエイティブ・ディレクターであるベアトリス・チア=リッチモンド(Beatrice Chia-Richmond)氏が提供したテクニカル・ブリーフを見て、ユエ氏はイベントの最適なサウンドデザインを作成することが楽な作業ではないことを覚悟しました。「舞台のデザインには、3つの巨大LEDスクリーンがメインステージの幅全体に広がる3つの巨大LEDスクリーンが含まれていたので、オーディエンスの視線を妨げることなくそれらのエレメントを補完するサウンシステム・デザインが必要でした。」と説明します。

ユエ氏は、どんなにアレイを長くしても従来のLR構成では広い観客席エリアを適切にカバーできないことを確信していました。また、ホールの高さ制限という壁にも直面しました。それらの問題を機会に変えて、L-ISAによるイマーシブ構成を考えました。より小さなハングを大きなスクリーンに沿って吊ることで、開閉会式に空間化オーディオを提供し、最高のゲーム・エクスペリエンスを達成できました。開閉会式では、IOCとシンガポール政府の公人によるヴァーチャルと生の講演のほかに、シガ・シェイやアイシャ・アジズによるダンスパフォーマンスやセットが行われましたが、マルチメディアによる祭典は、視覚的に壮大なものになる必要がありました。ユエ氏は、最先端の音響・映像技術に慣れているオーディエンスに、ビジュアルに匹敵できるオーディオを、提供しなければならないと確信していました。「ゲーム界における音響について考えてみると、イマーシブであることに気がつきます。ゲーマーはみんな、音楽とサウンドエフェクトの組み合わせがヘッドセットで周囲を飛び交うような効果を追求しています。もちろん家庭でもそうです。スタンダードになっていますからね。だから、ライブでゲームを楽しむオーディエンスにイマーシブ・オーディオを供給することが当たり前でした。」と説明します。

ユエ氏が提案したシステムデザインは、1台のL-Acoustics A15 Focus とWide1台ずつによる5つのハングと中央にフライングされた4台のKS21サブウーハーで構成された、メインのシーンシステムが使用されました。9台のX12で観客席エリアを囲んで360°のイマーシブ体験を実現しました。システム全体はJ5 Productionsによって供給・設置されました。

現場におけるリハーサル時間が限られていたため、ユエ氏はクリエイティブチームと親密に協力しL-ISA Studioを使ってコンテンツを用意して、シンガポールのL-Acoustics公認プロバイダー・ディストリビュータ、Concept Systemsのイマーシブ実験ルーム「L-ISA Auditoria」にミックスを持参しました。L-Acoustics L-ISAアプリケーション・プロジェクト・エンジニアのダニエル・リー(Daniel Lee)とConcept Systemsのジェラルド・フォン(Gerald Fong)氏と協力し、イマーシブミックスを作成しました。最後に、舞台が出来上がってから会場のAシリーズによるL-ISAシステムでミックスを仕上げました。

このセレモニーは、没入感のある映画のようなマルチメディア体験として参加者の注目を集めました。「このシステムはEスポーツとイベントプログラム両方の異なるコンテンツニーズにダイナミックなサウンドを提供できると確信していました。Concept SystemsとシンガポールのL-Acoustics APACテクニカルチームの技術インフラと製品知識がなければ、この複雑なプロジェクトを成功させるために貴重なリソースを活用することはできなかったでしょう。」とユエ氏は語ります。

「ユエ氏の技術的専門知識のおかげで、史上初の国際的Eスポーツ・イベントのためにクリエイティブなオーディオ・ソリューションを作成することができ、IOCの要求を満たすことができました。そして、観客を魅了することもできました。」とチア・リッチモンド氏は締めくくります。「開会式にL-ISAイマーシブ体験を導入したことで、観客はゆっくりとくつろぎながら、すべてのゲーム・アクションを楽しむことができました。」