シェイクスピアズ・グローブの『ピノキオ』。L-ISAハイパーリアルサウンドで、鼻が高い成功を収める
2026年4月
ロンドン、テームズ川の南岸に沿うシェイクスピアズ・グローブは、世界で最もユニークな劇場と言えるでしょう。シェイクスピア本人が『ハムレット』『リア王』『ジュリアス・シーザー』を初演したエリザベス朝時代で建てられた劇場「グローブ座」を忠実に再現し、イギリスのオークと16世紀のほぞ継ぎを採用しています。また、1666年のロンドン大火以降、ロンドンでかやぶき屋根の使用が許可された唯一の建物です。その円い構造により、観客が広いスラストステージを三方から取り囲んでいます。「Groundlings」と呼ばれる1階の立見席は600人を収容でき、断崖のように舞台を見下ろす3層のギャラリー席は最大1,000人を収容します。この構造は、生の声を自然に増幅するために考えられました。設計による親密さとまっすぐな響きは、シェイクスピアズ・グローブの特徴的な体験を生み出します。
2025年12月、ホリデーシーズンのプログラムの一環として、グローブ座は新作ミュージカル『ピノキオ』を上演しました。『ピノキオ』は、家族連れをターゲットとした大ヒット作として、生バンドとボーカルを惹きたて、若いオーディエンスを惹きつけるために現代的なSRが必要とされました。但し、劇場の構造と美観、そしてグローブ座の唯一無二の観客体験を損なうことなく保つ必要もありました。グローブ座の長い歴史の中で、SRは、ライブ、コメディショー、詩の朗読などの特別イベントに使用されてきました。しかし、現在も音響増幅装置を使用しない数少ない劇場の一つとして、グローブ座は年間を通じた活動において、生の声の持つ魅力を、誇り高く伝え続けています。とはいえ、冬の屋外でのミュージカル上演は、劇場を訪れる家族連れに世界最高水準の体験を提供するうえで、大きな課題となりました。

ということで、目的は明確でした。それは、透明性の高いサウンドを導入することでした。目立つサウンドではなく、感じとれるサウンド。L-ISA Hyperrealのオブジェクトベース空間オーディオにより、複数のシングルソースをマルチアレイ構成に配置することで観客が目で見るものと耳で聴くものを一致させ、その自然さを実現することができました。
『ピノキオ』のプロデューサーであるシェイクスピアズ・グローブは、サウンドデザイナーであるトニー・ゲイル(Tony Gayle)氏がローレンス・オリヴィエ賞のベストサウンド賞を受賞した舞台版『となりのトトロ』で手掛けたサウンドデザインを実際に鑑賞し、ゲイル氏にアプローチしました。「『ピノキオ』にも同様のデザインを目指していました。透明で自然なサウンドが求められました」とL-Acousticsグローバル・アプリケーション、ミュージカル部門のトビ・チェスター(Toby Chester)は語ります。「ゲイルさんの経験は、本プロジェクトにとって大きな強みでした。」

グローブ座に受け入れられる唯一の選択肢、L‑ISA
「グローブ座に増幅システムを導入することに当たって、ソリューションを慎重に検討いたしました」と、Autograph社のウィル・マクゴナグル(Will McGonagle)氏は語ります。「1997年のリオープン以来、この劇場は増幅システムを使用しない音響空間を大切に保ってきました。観客は、生音で活気に満ちた物語、いわゆるシェイクスピアの時代へタイムスリップするような体験を味わうためにグローブ座にいらしています。空間に馴染んで、存在感を強調しないサウンドデザインを実現することが必要不可欠だと強く意識していました。それで求められたのは、セリフの明瞭さと音楽の透明性を達成しながら、完全に存在を感じさせないことでした。」

グローブ座特有の課題をSoundvisionで克服
ゲイル氏とAutographのチームは、グローブ座の独特な課題に直面しました。円形の屋外劇場という点は、音が従来の屋内劇場と違う伝わり方を見せることを意味しました。さらには、風や天候も空間の自然な残響に大きな影響を与え、一階席から三層にわたるギャラリーまで全体にわたり均一なカバレッジを達成することも十分な課題でした。
「最も大きな懸念は、システムの見た目にありました」とチェスターは語ります。「システムが工業的に見えないように工夫が必要でした。グローブ座は歴史ある建物として、機材が見えることは当然望ましくありませんでした。」
最適なソリューションを見つけるため、L-AcousticsとAutographはゲイル氏と協力しL-Acoustics Soundvisionソフトウェアを用いて空間をモデリングし、いくつかの構成案をグローブ座と『ピノキオ』の制作チームに提示しました。さらに、導入決定の前より実際のスピーカーを会場に持ち込み、サイズ感とフットプリントをグローブ座のチームに確認させました。選ばれたスピーカーは、L-Acousticsの標準ブラウン仕上げで、会場に自然に溶け込み、目立ちません。

L-ISAサウンドをいたるところに
Autographによって提供された最終的なシステムは、ゲイル氏と親密に連携したオーディオプロフェッショナルなチームが施工しました。メインのシーンシステムは、ステージの上にフライングされた5台のX12で構成されました。2台のKS21サブウーハーが、屋外環境でもタイトでコントロールされた低域を提供しました。
この設計の最大の特徴は、ギャラリーボックス全体に展開された空間フィルシステムです。3層にわたる各ボックスに5XTを3台ずつ、合計113台を配置し、L-Acousticsとして同種フィルシステムでは過去最大規模となりました。メインシステムの音が届かない上層階のボックス席では、これらのフィルスピーカーがオーディオ体験を届けました。
この複雑なシステムを管理するため、構成の中核にはL-ISA Processor IIを採用し、LA7.16アンプリファイド・コントローラーとLS10スイッチにより、冗長化されたMilan AVBネットワークを通じて信号分配が行われました。チェスターは加えます。「LA7.16を使用することで、全体の消費電力を大幅に削減でき、従来型のアンプと比較して、音響室における設置面積も半分以下に抑えることができました。アンプはL AcousticsのLA-RAK IIIラックに組み込まれており、LS10ネットワークスイッチを用いた二重冗長のAVB接続に加え、AES/アナログのフォールバック機能も備えています。結果として、倉庫での機材準備やプログラミングにかかる時間を大きく短縮できました。」
L-ISA内では、4つの独立したサウンドスペースが構成されました。メインのシーンシステム用に1つ、そして中央のボックス用にそれぞれ1つずつです。これに加え、ステージに近く生音がより多く届く客席向けにミックスを調整できるSource Trims機能を用いることで、客席のすべてのエリアに最適化されたミックスを提供することが可能になりました。L-ISAに搭載されたSource Trims機能は、極めて重要な役割を果たしました。

システムではなく、ストーリーを耳にする
結果は、クリエイティブチームが期待していたすべてを満たすものとなりました。観客からの反応は非常に好意的で、音楽監督やクリエイティブディレクターをはじめ、多くの関係者がシステムのパフォーマンスを称賛しました。何より重要だったのは、ゲイル氏のサウンドデザインが、当初求められていた役割を見事に果たしたことです。観客は、音響機材の存在を意識することなく、『ピノキオ』の物語に深く没入していました。
チェスターにとってこのプロジェクトは、L ISAの空間的な音の配置と「自然さ」の知覚との関係を改めて証明するものでもありました。「5XTは非常にコンパクトなスピーカーです。建築的な意匠を害さず、ギャラリーボックス内に収めることができました。この物理的な目立たなさこそが、グローブ座でフィルシステムを実現できた最大の理由です」と語ります。「Autographと協力することで、シアターのアイデンティティや観客体験を損なうことなく、プロフェッショナルなサウンドシステムによる繊細な音作りを実現することができました。」





























