2025年7月
スペイン、パンプローナ。バルアルテ劇場の1,600席を有するメインホールは、典型的な音響課題に直面していました。それは、ディレイシステムを必要とせずに奥行き40メートルまで一貫したカバレッジを実現しながら、クラシックオーケストラから現代ロックコンサートまで、幅広いプログラムに対応することでした。この会場の残響が多い音響特性と、フラメンコやクラシック公演に不可欠なステージの美観を保持するという要件により、厳しい外観上の制約の中でツアークオリティのプロフェッショナルな音響を実現できるソリューションが求められました。

バルアルテ・コングレス・パレスは、パンプローナの16世紀の城塞に隣接し、63,000平方メートルの会議・パフォーマンススペースを備えたナバラ州の主要な文化施設です。メインホールの音響特性の中、マドリードのポップロックバンド「Morgan」からヴァイオリニストのアラ・マリキアンまで、多様なプログラムスケジュールに対応するため、空間全体にわたって明瞭性を維持しながら、大きく異なる音響要件に対応できるシステムが求められました。

L2D構成がカバレッジとカーディオイド制御の要件に対応

スペインのL-Acousticsの販売代理店であるEarproは、L-Acousticsアプリケーションチームと協力し、L2Dラインアレイを中心としたソリューションを設計しました。システムの施工は、ハイエンドな映像・音響設備の設計と統合で高い評価を得ているスペインの企業Telesonicが担当しました。

このシステムに統合されたカーディオイド技術は、残響の多い空間における音響制御において不可欠であり、コンパクトなフォーム・ファクターは、会場のステージ美観に関する要件を満たしました。また、同会場では過去にKara IIなどL-Acousticsのレンタルシステムを使用した実績があり、その性能に対する信頼がすでに確立されていました。しかし、L2Dの選択は、音響性能以外の基準も考慮されました。劇場の戦略プロジェクト23-30の一環として、デジタル化とサステナビリティを柱とする劇場は、優れた音響性能に加え、環境に配慮した技術を優先しました。

「L2Dの導入は、私たちの環境への取り組みにおける重要な一歩でもあります。非常に効率的で環境に優しいシステムなのです。」と、ナバラ州立の文化振興機関「NICDO」のサステナビリティ・品質担当ディレクターであり、バルアルテのオペレーション責任者でもあるエドゥアルド・ナンクラレス(Eduardo Nanclares)氏は説明します。Lシリーズの持つサステナブルな設計仕様は、同等のシステムと比較して木材を30%、鋼材を60%、塗料を56%削減し、25%軽量化を実現しており、会場のグリーン設計理念に完全に合致していました。

現地でのデモンストレーションにより、L2D構成がプロフェッショナルレベルのカバレッジを実現し、予算、設置スペース、サステナビリティ目標のすべてを満たすことが確認されました。

Soundvisionモデリングが3つの主要な設計課題を解決

Soundvisionソフトウェアによるデジタル音響モデリングは、プロジェクトの主要な技術的課題を解決しました。それは、ディレイシステムを使用せずに、奥行き40メートルの会場全体で均一な音圧レベルを確保すること、残響の多い空間で、直接音の拡散と反射音のバランスを最適化すること、後方席まで十分な音量を届けつつ、視界を妨げず建築空間に自然に溶け込むことの3点でした。

「Soundvisionのモデリング機能は絶対に欠かせませんでした。このスケールの空間で、これほど合理化されたL2構成がどれほど効果的に機能するかを実証するには、あの精度の予測能力が不可欠だったのです。」と、EarProのオーディオ製品スペシャリスト、リュック・エスピナック(Luc Espinach)氏は語ります。

最終的にL2Dソリューションが会場特有の音響と運用要件に最適であることが証明されるまで、複数の構成が分析されました。

L2DアレイとKS21サブウーハーによるシステム構成

メインシステムは、左右それぞれに1台のL2Dを配置したL/Rアレイ構成で、スーパー・カーディオイドモードに設定し、ステージ上への不要な音の回り込みを最小限に抑えています。Panflexの角度は90度に設定され、内側に傾けることで側壁からの反射を軽減しています。低域補強には、センターハング構成の6台のKS21サブウーハーを使用。3台ずつの2列でカーディオイド構成を形成しており、特定のコンサートの要件に応じて、左右にサブウーハーをスタックするように再構成することも可能です。

ステージリップに4台のX8がフロントフィルとして設置され、ステージ左右に4台のX12がグランドスタックされてインフィルとして設置されています。システム全体はMilan-AVBネットワーク上で動作しており、P1プロセッサーがFOHコンソールと、会場内のラックルームに設置されたLA7.16iアンプリファイドコントローラーとのネットワーク接続を管理しています。

Morgan公演とユーザーからのフィードバックによるパフォーマンス検証

このシステムの成功は、導入後最初の主要公演のひとつであるマドリードのポップロックバンド「Morgan」のコンサートで実証されました。「L-Acousticsアプリケーションチーム、特にアプリケーションエンジニアのトム・ラヴフ(Tom Laveuf)の指導とサポートは、このプロジェクトの成功において極めて重要でした。」とエスピナック氏は続けます。オーナー、テクニカルチーム、バンドチーム、そして観客から寄せられたフィードバックはいずれも非常に好評で、特に音の均一性、明瞭さ、そして言葉の聞き取りやすさに関する具体的なコメントが寄せられました。

システムの効率はオーディオ・パフォーマンスだけにとどまらず、L2Dの導入は従来のシステムよりも68%速く完了し、より俊敏でサステナブルな施工を実現しました。

ナンクラレス氏は、このシステムは「サステナビリティとイノベーションに基づいたバルアルテの将来戦略を支えるもの」であり、会場が掲げる「非常に効率的で環境に優しいシステム」と表現しています。音響品質の最高基準を維持しながら、環境への取り組みを支援するものだそうです。

エスピナック氏は次のように締めくくります。「L2Dのロングスロー性能、コンパクトな設計、そして統合されたカーディオイド技術の組み合わせが、バルアルテに、将来を見据えたオーディオソリューションを提供しました。これは、北スペインを代表する文化・会議施設としての使命を支えるものです。」