See Factorは、ニューイングランド最大のライブ会場にKシリーズとAシリーズのシステムを提供。

2022年7月
グラミー賞受賞ミュージシャンのビリー・ストリングスが今年3月、満席となった公演でRoadrunnerのステージに立ったとき、ボストンの新しい施設は正式にニューイングランド最大のライブ施設となったのです。オールストン/ブライトンのBoston Landing開発地区にある4,600平方メートルのスペースは、当初ボストンのNBAチーム「セルティックス」のトレーニング施設として計画されましたが、同チームが通りの向かい側に移転することが決まったとき、The Bowery Presents(TBP)とAEGは、アーティストとオーディエンスの体験を重視する3,500人規模のライブハウスに最適なスペースであると判断しました。このミッションを成功させるために、コンサートプロモーターは再びニューヨークのインテグレーターSee FactorにL-Acoustics K2スピーカーシステムの導入を依頼しました。

TBPは、ハーバード・スクエアの525人収容の「シンクレア」やシアター・ディストリクトの1,200人収容の「ロイヤル」も運営しており、ロードランナーはTBPが所有・運営するボストン地区で3番目の施設となります。2,000万ドルをかけて建設された新しいRoadrunnerは、客席のどの位置からも視界を遮るものがなく、ステージや部屋のデザインも拡張できるユニークな設計になっています。最大で18メートルにもなるステージは、アリーナサイズのツアーリング・プロダクションに対応しますが、フットプリントを小さくすることも可能です。これにより、ハウスPAはトロリーでステージの上下に移動し、3つの異なる位置から、より小規模のパフォーマンスの観客に親密な体験を提供できるように設計されました。

Photo Credit: Ben Stas/Noise Floor

「ようやく建物内に入り,全ての制作用機材の組み込みを始めた時,複数のフロアプランやアーティストのニーズに応えるために全ての機材を可動式にしておきたいと考え,当初のデザインから幾つか変更を加えることにしました。」 と語るのはRoadrunnerのオーディオテクニカルディレクターであるモーガン・ラッセル(Morgan “Mo” Russell)氏です。彼はRoadrunnerのプロダクションマネージャーEric JensonとA2 Reid Calkinと共にTBPの新しい会場で音響関係の中心的なクルーとして務めています。「これらのことを考慮し、片側12台のK2エンクロージャーのメインとその後ろに6台のカーディオイド構成のKS21サブウーハーをフライングし、完全なフルレンジを左右に配置することにしました。これらの機材は全て特注のビームトロリーに搭載され、プロダクションのニーズに応じて会場を小さくする際にハウスまで約1.8m移動することが可能です。」

Photo Credit: Ben Stas/Noise Floor

また、Roadrunnerは8台のA15 Wideエンクロージャーをアンダーバルコニーフィルとして、2台のA15 Wideをオーバーバルコニーフィルとして吊り下げており、「会場全体に素晴らしいステレオイメージを維持するためにメインをフォローします。」とラッセル氏は指摘します。サブフィードでは、10台のKS28が地面まで1cm位の高さでステージ前部のデッキから吊られています。これにより、クラブは部屋のサイズを小さくするためにステージを前へ移動する際に、サブクラスターを一気に移動させることができるようになりました。さらに、ダウンステージエッジのライザーデッキに設置された8台のKara IIiがフロントフィルを担い、これもサブウーハーと共にシームレスに移動します。

ステージ上のモニターシステムは、15台のX15ウェッジと、片側2台ずつのA15i FocusとKS28サブウーハーで構成されたステレオサイドフィルが採用されています。LA12Xと数台のLA4Xアンプリファイド・コントローラーが、ハウスシステムとモニターシステムをドライブしています。

スピーカーシステムの初期設計は、TBP/AEGのシステム設計エンジニアのローン・グレイブ(Lorne Grabe)氏が、ニューヨーク在住のオーディオエンジニアアレックス・カー(Alex Kehr)氏とL-Acousticsアプリケーションエンジニアの クリス・サリバン(Chris “Sully” Sullivan)と密接に協力して作成しました。「L-Acousticsとは長い付き合いなので、The Bowery Presentsのサウンドエンジニアには非常に相性が良いのです。」とグレイブ氏は語ります。彼は、K2システムを導入しているマンハッタンの会場Terminal 5のヘッドサウンドエンジニアも兼任しています。「L-Acousticsは、RoadrunnerやBrooklyn Steel、Terminal 5、Webster Hallなど、ニューヨークでの施設のケアをしてくれて、私たちと素晴らしい関係を保っています。さらに、サイトラインとサブウーハーの重量の問題によりボストンの新しい会場の設計を急遽変更しなければならなくなったとき、L-Acousticsのサリバンさんはいつも私たちをサポートしてくれました。」

PAはクイーンズのSee Factorで組み立てられ、ツアー用のケースで新しい会場に運ばれてくるずっと前から、TPBオペレーション/コンストラクションディレクターのスコット・レイブド(Scott Raved)氏は、この部屋の設計と、隣接するTRACK at New Balanceスポーツコンプレックスを含むクラブの近所から音響的に隔離することに力を注ぎました。「ロードランナーで唯一無二の動く演出要素の設計が始まってから最終的なインストールまで、私が指揮を執りました。ロードランナーのプロダクションは、各分野の専門家の協力を得て、Boweryの経験と期待を結集した、これまでのどの会場よりも優れた作品に仕上がっています。」

オーディオシステムに関しては、L-Acousticsはこのプロセスを通じて非常に優れたパートナーでした。グレイブさんとサリバンさんは、2年以上にわたってロードランナーのSoundvisionのファイルを一緒に作っていました。設計は、3Dファイルから地面に穴を開け、頑丈な外壁の防音対策を施した会場を完成させ、今日の音響処理された内装へと発展してきました。そして、L-Acousticsは、最初のショーの数日前の真夜中に新しい機材を微調整するなど、ずっと私たちのそばにいてくれました。」

FOHとモニターミックスのDiGiCo Quantum225コンソールに加えて、FOHにはL-Acoustics P1プロセッサー1台とLS10スイッチ5台を組み合わせ、Milan-AVB変換、システム制御、大気調整などに使用しています。PA全体はAVBで運用しており、垂直方向のスピーカー・サーキット間でタイミングの整合性が向上するため、高域のレスポンスが大幅に改善されています。

ラッセル氏は、AVBを採用したのは「当然の選択でした。システムを駆動するオーディオに、原音に忠実で完全に一致したものを求めない人はいないでしょう。」と語ります。「しかし、P1が提供するシームレスな冗長性も重要です。AESとアナログのバックアップは常に稼働させていますが、P1がバックアップに切り替わることを確認するためにケーブルを抜いてみて、『わあ、素晴らしい!切り替わったことが分からない』と言った時以外、AVBが落ちるという問題は一度も発生していません。」

Photo Credit: Ben Stas/Noise Floor

「P1は、本当に素晴らしいツールです。M1測定ツールとの統合により、ゲストエンジニアが望むようなPAのセットアップを簡単に行うことができるようになりました。PAには大きく分けて2つのポジションがありますが、アーティストによってニーズは異なります。あるエンジニアがツアーでボーカルマイクの音量に悩んでいたのですが、朝、彼が来たときにPAをステージからあと1、2メートル位移動させて、ハウリングマージンを大きくさせました。P1ではそれが簡単で、数分で部屋の新しいタイミングを取ることができました。そして、ツアーシステムエンジニアがSmaartと1時間ほどいじっているのをじっと見ていると、M1が最初に勧めたのと同じ結論に至っていました。

「また、オートクライメート機能は非常に優れており、推奨される変化にフェードインして、その変化を実際に聞くことができることに価値を感じます。ソールドアウトのショーの最中と、サウンドチェック時の温度・湿度条件は大きく異なります。オートクライメートのおかげで、サウンドチェックからショーの終わりまで一貫性を保つことができ、とてもありがたく感じています。」

ヘッドライナーの多くは専属のエンジニアを雇うようになりますが、ラッセル氏によれば、今でも多数のオープニングアクトのミキシングを担当しているとのことです。「このPAでのミキシングは素晴らしいです。美しい機材とそれに見合うだけのスペースになっています。「スコットさんがデザインしたロードランナーは、私が今までミキシングした会場の中で最も気に入っている場所の一つです。かなりデッドなサウンドでありながら、適度なライブ感もあり、ミックスやエフェクトの効果を存分に味わうことができます。また、この機材はヘッドルームが非常に広いので、システムを強くプッシュする必要がないのです。また、小さな音量でも、驚くほど多くの空気を動かすことができ、ゲストの安全を考慮しながらも、臨場感とインパクトのあるショーを観客に届けることができます。例えば、一晩中PAの風で服を揺さぶらせても、耳鳴りを起こして帰らせることはありません。このくらい素晴らしいシステムなのです。」

Photo Credit: Ben Stas/Noise Floor